新札幌整形外科病院

tel.011-893-1161

tel.011-893-1161

治療について

麻酔

患者さんにやさしい麻酔とは?
脊椎麻酔 "いわゆる腰からする麻酔"
写真A
一般には下半身麻酔などと呼ばれ、よく盲腸炎(正確には急性虫垂炎)の手術で行う麻酔です。写真Aのような細い針を背骨の間に刺して、"くも膜下腔"という脊髄と脳の周りの狭い空間に局所麻酔薬を注入し、下腹部から下肢の感覚を無くする方法です。特別な機器を必要としないため、"手軽で侵襲の少ない麻酔"と考えられがちです。麻酔科医でなく外科医でも行える麻酔ですが、麻酔効果の調節が難しく、また"脊麻後頭痛"と呼ばれる合併症を起こすことがあります。これは、くも膜下腔に流れる脳脊髄液が、ここに針を刺すため、針穴からゆっくりと流出し頭蓋内圧が低下し、その結果として頭痛を起こすものです。仰向けで寝ていれば症状が無いにもかかわらず、起き上がると激しい頭痛や吐き気、めまいが起こります。この症状は手術後2~3日目にピークを迎えます。回復するには一週間以上を要することも珍しくありません。患者さんがいやな手術経験を持っている場合は、ほとんどが脊椎麻酔です。
硬膜外麻酔  "麻酔科医の腕の見せ所"
写真B
写真C
硬膜外麻酔とは、脊髄(神経の束)と脊椎(骨)との間の狭い空間(硬膜外腔)に細い管を入れて局所麻酔薬を注入し、手術している部位の感覚をなくする麻酔方法です。脊椎麻酔に似ていますが、技術的にははるかに高度で、手術部位によって挿入部位を変えなければならず、麻酔科医にとっても熟練を要する方法です。手術後には、管からゆっくりと局所麻酔薬を持続注入することで、痛みを抑えることができます。
写真Bが管を入れるための針と管です。管は太さが1ミリメートル程の細いものなので、入れたまま生活していても気になりません。写真Cは、持続的に局所麻酔薬を注入する装置です。硬膜外麻酔は、人工膝関節置換術や靭帯再建術のときに挿入しますが、その他、手術後の痛みが強い手術には挿入することにしています。また、ペインクリニックの分野でも頻繁に施行されています。
全身麻酔"恐れる必要はありません。実は最も安全な方法です"
写真D
全身麻酔は、我々麻酔科医にとっては、実は最も安全な麻酔方法と考えられています。患者さんは眠ったままなので、呼吸や心臓の動きはすべて麻酔科医が管理できるからです。
写真Dは"気管内挿管"に使用する喉頭鏡(右)と挿管チューブ(左)です。筋弛緩薬を使用した麻酔では、患者さんが自分で呼吸できないために(もちろん患者さんは眠っていますが)この管を気管内に挿入して、人工呼吸器で息をすることになります。この方法は救命救急の現場でも多用される方法です。全身麻酔としては、最も確実な方法です。当院では主に腰の手術の場合にはこの方法を選択しています。
手術後、喉に痛みが残ることもありますが、翌日には治まります。 喫煙者は、手術後一過性に痰が増えることが多いので、早めの禁煙が安心です。
ラリンゲルマスク  気管内挿管の代わりに使用します
写真E
当院で、気管内挿管の代わりに使用することが多い道具です。写真Eの写真下部の肌色の部分を喉の奥に挿入して、呼吸をさせるものです。ほとんどの場合、筋弛緩薬を使用せず、患者さんはラリンゲルマスクを通して自分で呼吸しながら眠っています。この"ラリンゲルマスク"は、気管内挿管に比べて喉への侵襲が少なく、手術後も3時間程度で飲食が可能です。ラリンゲルマスクのおかげで、患者さんは手術後に楽に過ごすことができるようになりました。麻酔科医にとっても信頼できる麻酔を行うことができる道具の一つです。当院では肩の手術、膝関節鏡(スコピー)、人工関節置換術などほとんどの場面で使用しています。
神経ブロック "伝達麻酔とも呼ばれます"
写真F
手術部位に分布する神経の通り道に、写真Fのような種々の"局所麻酔薬"を注射することで痛みを取り除いて手術する方法が伝達麻酔です。手術時間や部位によって使用する局所麻酔薬を選択します。広い意味では脊椎麻酔や硬膜外麻酔も神経ブロックの仲間です。神経支配は多岐に及んでおり、伝達麻酔で完全に痛みを抑えきれない場面もあり、そのようなときには局所麻酔薬を手術部位に追加します。当院では、伝達麻酔に全身麻酔を併用することが多くあります。患者さんにとって伝達麻酔だけで手術を行った場合には、手術している音が耳に入るなどして怖い思いをしたり、また伝達麻酔の及ばない範囲に手術が及んだ場合には苦痛を感じたりすることがあるからです。逆に全身麻酔に伝達麻酔を併用することもあり、この場合には全身麻酔を深くしなくてすむというメリットがあります。
麻酔についてのQ&A
麻酔って怖いの?
全身麻酔を怖がる患者さんは多くいます。しかし麻酔科医にとっては、実は全身麻酔が最も安心できる麻酔なのです。それは患者さんの呼吸から心臓の動き、さまざまな体の中のバランスをすべて麻酔科医が調節できる状態になるからです。手術中の患者さんには、さまざまな身体的変化が起こります。たとえば血圧が上がったり下がったり、脈が速くなったり遅くなったり・・・・。このような身体的変化が急激に起こりうる手術中に目覚めていれば、患者さんは非常に不快に感じることでしょう。あるいは気分の悪さでショック症状を起こしてしまうかもしれません。しかし、全身麻酔下では患者さん自身は眠っているので、それらの苦痛を感じることはありません。目が覚めてしまえば、いつの間にか手術が終わっていたという感じですので安心してください。全身麻酔から目が覚めないという状況は、通常では起こり得ません。手術中に脳梗塞を起こしたり脳出血を起こしたりした報告はありますが、それは日常生活を送っていた中でも起こっていた可能性が高いもので、たまたま起こったときが手術中であったと考えるほうが妥当です。全身麻酔を怖がらないでください。我々麻酔科医がついているのですから。
私は麻酔が効きにくいのですが
歯科医での治療時や、帝王切開手術時に痛みで苦しんで治療や手術を受けたあげく「あなたは麻酔の効きが悪い」などと言われて心配している患者さんがいます。しかし麻酔の効きが悪いということはほとんど無く、大半は麻酔施行者(医師)の技術の巧拙が原因です。内服薬によっては麻酔薬と干渉し、効き過ぎたり早く切れたりさせるものはありますが、それはごくごく一部の特殊な薬剤です。仮に一つの麻酔方法が使えないからと言って、麻酔方法はそれがすべてではありません。麻酔にはさまざまなバリエーションがありますから、熟練した麻酔科医はそれらから適した方法を選択して施行することができます。ご安心ください。自分は酒が強いから麻酔がかかりにくいと言われる患者さんもいます。しかしそれも迷信の一つです。逆に飲酒によって肝機能が悪くなり、麻酔薬の効きが長くなってしまうこともあります。飲酒は程々に。また、麻酔をかける時、数を数えた経験のある方もいると思います。自分は3で眠ったとか、20まで数えても眠らなかったかとか・・・。これも数える麻酔科医の早さで変わってしまいますので、効きやすさの判断材料にはなりません。今では数を数えないのが普通です。
(C) SHIN SAPPORO ORTHOPAEDIC HOSPITAL